ICU2日目と言っても、痛みでまともに眠れないのだから日付けの感覚はなく、長い時間の経過。ただ時間が過ぎるのを待ちます。
私に与えられた自我は、視覚、嗅覚と聴覚。
言葉は痛みを表す時と、何かを欲する時のみ。
喉がやたらと乾き、唇がカサカサに乾燥します。看護師に氷を求めると、製氷機で作られるキューブ状の氷を口に入れてくれます。
この冷たい感覚が一番心地良い瞬間です。
視覚、嗅覚、聴覚を研ぎ澄ましICUでの自分の情報を収集します。
◯号。おそらく私はそう呼称されているようだ。ベット区画なのか、◯人目の意味なのか。。。詳しくは分からないが、そう呼ばれているようだ。
2日目の朝を迎えた。ほぼ眠れない夜を過ごした。このICUを出る2日半、殆ど眠る事はなかった。
朝の大仕事は、私の体重を計ること。
なぜ痛いのが分かっていながらたを計るのか理解できないが、ハンモックのような網に移されマグロ計るかのように吊るして体重を計る。
その時、看護師が「t数を計る」と陰で言い合っていたのを聞き逃さなかった。
事件はこのICU2日目の夜中に起こった。

痛みが続くときは点滴の中に、痛み止めを混入(注射)してもらう。
だいたい6時間開けて痛み止めを使う。
ICU2日目の夜、痛みが続いたので看護師に頼み処置してもらった。夜の9時頃の事だ。
数時間しても一向に痛みが緩和されない。
お腹の裏、背中の方がチクチクし時より痛い。
深夜零時。流石に痛みに耐えられずナースコールを押す。一人目の看護師A(今日の私の担当)は、「効かないですね」と点滴をチェックし血圧を確認するのみ。私のあまりの苦痛具合に、別の看護師Bがやって来て点滴をチェック。すると「点滴が固まってるよ」「流れていない」と慌てだした。よく見ると、名札に二人とも若葉マークが貼ってある。つまり、集中治療室の夜勤が新人2名なのだ。
この時点で、私の症状を改善させる知恵と術をこの二人は持っていなようだ。
私は、息が荒くなり昏睡の一歩手前である。
その時、看護師Bが恐ろしいことを看護師Aに囁いた「点数が変わるよね?」「まずいよね」そう言うとICUの隅の方へ二人で行き、ヒソヒソと密談しはじめた。
この時、私は大筋で事を理解した。つまり、今の病状が、自分たちのミスにより違う病状になってしまうと、保険点数なのか院内の評価点数なのかが狂ってくる。どちらにせよ責任を追及される。
だから。。。
ICUは密室である。患者は身動きできない。
容態が急変したとしても、その原因はあくまでも急変なのだ。
ナースコールを押す。
看護師Aが私の顔の前まで覗き込み「どうしました?」と言ってきた。
「腹が張っているだろ?」看護師A「張ってませんよ」あくまでも、患者の戯言。
「張っているじゃないか!」普段温厚な私も流石に大きな声で荒げた。
この危機を打開する手段はあった。この時間帯のヘッドつまり、責任者の看護師が帰って来るのを待つ。ところがなかなか帰ってこない。先程、救急車がやってきて救急外来に行ったままなのだ。
二人の新人看護師は、私に近づこうとしない。
患者が苦しんでいるのにである。
当直医を呼べと言っても無視。当然、主治医を呼ぶこともない。

しばらくすると、やっと責任看護師が帰ってきた。
私の容態を確認すると、新人看護師二人に「点滴液を逆流させて、溜まっている液を抜け」と指示した。すると張っていたお腹が楽になった。痛み止めが点滴で回っていないため痛みは耐え難い。
たった、これだけの処置である。
この知恵や経験が二人の新人看護師には無かった。無かったために隠蔽しょうという発想になってしまう。
ICUとは実に怖い。
私がICUにいた2日半で2、3 名が急変して亡くなったようだ。
なぜ亡くなったと思うのか?
①患者の身寄りなど知る由もないが、看護師が葬儀社の手配をしていた。
②手術の失敗なのか家族が訴えると騒動になったと看護師同士の会話が聞こえてきた。
③家族に容態が急変して亡くなった旨の電話連絡をしていた。
看護師が、死亡診断書の用紙が足らなくなり事務局に手配していた。
私が鳥肌ものだったのは、容態の急変で亡くなった際に現場が慌ただしくなるとか、心臓マッサージなどの救命処置を行っているような気配が一切なかったことだ。
テレビドラマで見かける、バイタルが低下し医師が「帰って来い!」と願いながら心臓マッサージを行っている様子など皆無であった。
朝方、看護師のリーダー(男)と看護師(女)が金儲けの話を延々としていた。二人の話を聞きつつ、その情報はもう古いよと失笑しつつ子守り唄のようにうたた寝をしつつ朝を迎えた。
私は、HCUという次の段階の集中治療室へ移動した。
ずーっと絶食中なのだが、空腹感はなく体重も全く減っていない。残念。